死後も政治的影響を与えたショスタコーヴィチ

死後も政治的影響を与えたショスタコーヴィチ

死後も政治的影響を与えたショスタコーヴィチ

2024/02/29
【ご注意】このブログはVIDEO-GOISのスタッフに向けて、クラシック音楽に親しんでもらい、作品のスキルアップを目指してもらうことを目的として開始されました。そのストックを公開しているもので、表現や内容、考え方について専門的なものではございませんのであらかじめご了承ください。


以前も少し触れたが、ショスタコーヴィチの研究で必ず話題になるある本がある。それが、ソロモン・ヴォルコフというソ連の音楽学者が、ショスタコーヴィチから聞いた話を文章にした『ショスタコーヴィチの証言』。
1979年に、「死後発表することを条件に、ショスタコーヴィチが生涯を回想したもの」として、アメリカで刊行された。ソロモン・ヴォルコフはソ連の音楽学者で、この本にはショスタコーヴィチが「読んだよ」というサインがなされている。

ショスタコーヴィチは共産党にも入党し、議員にもなった人で、ソヴィエト政権に従順な作曲家とのイメージが持たれていただんだけど、二度、大きな失脚をしているんだよね。まあ、そのたびに復権していたなかなかの人。
『ショスタコーヴィチの証言』はそんな「共産党政権に従順な作曲家」というイメージを覆すもので、辛辣な政権批判があり、世界に衝撃を与えた本なんだ。ソ連政府はこの本を反ソ宣伝のために作られた偽書だと批判し、大騒動となった。

書かれている内容については、ショスタコーヴィチが何年にどこで何をしたかといった、出来事の記述部分については、他の資料との整合性があり、「事実」の部分がほとんどだ。
問題はショスタコーヴィチの「内面」、「本心」として書かれている部分で、誰にも証明できない。

『証言』で問題となったのは、内容が真実かどうかもさることながら、「ショスタコーヴィチがヴォルコフに話したのは本当なのか」という点と、もし本当にショスタコーヴィチが自叙伝を語り残したとしても、その内容と『証言』として出版されたものとが同じなのか、という点だ。二つを証明するのは、原稿にあるショスタコーヴィチのサインだけなのだが、原稿の全てのページにサインがあるわけではなく、証拠としては弱い。

近年の研究では、偽書の疑いが濃厚になっていて、偽書の代表格としてこの本が出される程なんだけど、クラシック音楽関係の本としては、日本でも異例のベストセラーとなり、それなりに反ソ宣伝としての役割を果たしたんだよね。
やはり、社会リアリズムの中で活動した芸術家は、本音を語ることが許されておらず、このように謎が謎を呼ぶ形となってしまうんだね。実は、だからこのショスタコーヴィチのことを知れば知るほど、彼の曲の深さや面白さが広がっていくんだよ。
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